俺たちがまだ外に出ていた頃
◆俺たちがまだ外に出ていた頃
最近外に出ていないので、外に出ていた頃の話をしよう。
外で食う飯は美味いものである。ここでいう外というのは、外食という意味でも相違ないが、どちらかと言えば「屋外」と言った方が良い。
海辺でバーベキューをしたり、遠足で行った公園でお弁当を食べたりといった、ごく当たり前の外で食べるごはんだ。
だが今は、そんな仰々しい食事でなくともよい。
過去の話をする。
大学4年生、卒業研究の真っ最中だった俺はよく、研究室に籠って深夜までよく分からない研究を進めていた。実際は自分以外に誰もいない部屋が快適だっただけで、それが必要な行為だったのかもイマイチ分からない。
夏のある日も、いつもと同じように深夜まで研究室に残っていた。
帰ろうと部屋を出て、慣れた手つきで鍵を閉める。鍵の立て付けが悪くて、閉めるのにコツがいる部屋だったことは記憶に新しい。
外に出ると虫が鳴いていて、夏だったから寒くはないのだけれど、冷たく穴の空いた真っ暗な夜空を、街灯が仄かに照らしていた。
そんな帰り際、自転車を漕いでいると、お腹が減ってきた。
帰ってからカップ麺を作ってもいいけど、お湯を沸かすのは面倒くさい。そう思ってコンビニへ寄った。
中へ入ると、おいしそうな牛丼が置いてあった。近くには別の牛丼チェーンもあったのだが、その時は目の前にあるコンビニ牛丼がとても美味しそうに見えて、そのまま手に取って買い、レンジで温めてもらった。
どこか食べるところは無いかと徘徊する。木々の陰で光の通らない公園の中を走り、市民プール入口前のベンチにたどり着いた。
木のベンチに腰かけ、袋から牛丼を取り出す。コンビニを出てから時間が経っていたが、まだ全然アツアツだったのを覚えている。お腹もペコペコだ。
そこで牛丼を頬張った。美味しかった。
ただそれだけである。
他にも海にいった話がある。
高校生あたり、よく海に行っていた。
それは男友達と複数人で行く日もあれば、ただ一人で行って、特に何もせず帰るなんて日もあった。
その日は一人で行った。太陽が煌々と照らす中を、汗を垂らし自転車でひた走る。俺のよく行っていた海は穴場だったのか、夏場になっても人でごった返しているということはあまりなかった。
到着して自転車を停める。そして砂浜の上に座って、カバンに入れていたおにぎりを食べる。親が昼ごはん用に作ってくれたおにぎりには、サケかタラコ、オカカあたりの魚介類の具が入っていた。
そんなおにぎりを海の前で食べる。耳の横を潮騒が通り抜けていく。食べている具が獲れた海はたぶん違うけれど、ひときわ美味しく感じるものである。
食べ終わったら帰った。
ただ、それだけ。
もう長いこと外に出ていないように感じる。
外に出ていた頃が懐かしく感じるほどに。
実際は用事で外出することもしばしばなのだが、味気の無いものばかりで、「お出かけ」をしているような雰囲気は無い。
はやく終息することを切に願う。
終息するためには外出自粛。
今我々にできることは、やはり「外に出ないこと」である。