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男もすなる日記といふものを、harumakiもしてみむとてするなり。

990円のサンタ

■990円のサンタ

 

 今年は何か成長できただろうかとふと思い返してみると、少しだけ本は読んでいたし、少しだけ文章を書いたような気もする。

 

 あとは何があるかと絞って絞って記憶の淵を辿っても然程蘇る思い出は無く、空白で希釈された一年だったという総括になりそうだが、もっと深いところまで思い返してみれば、別にこれまで過ごしてきた人生の1年1年とそんなに変わらないような気もして、少し安堵している。この安堵は不安と表裏一体だ。

 

 

 11月からアルバイトを始めた。

 前の仕事を辞めたのが10月31日だったから、ほとんど丸1年の無職を経ての社会復帰である。その理由は時間を持て余し始めたからで、高尚な志やビジョンがあるわけではない。

 「そろそろ働こうと思った」というだけである。辞めようと思えば簡単に辞められるし、辞めれば再び無職に戻れるという魂胆である。

 逃げ道があるということだが、この逃げ道というのは交差点のように道が分かれているわけではなく、ただもと来た道を戻るということに他ならない。

 

 

 話を戻す。アルバイト先は、ありふれた100円均一のショップである。

 ご存知だろうが均一とは名ばかりで最近は100円でない商品も多数並び、行くところまで行けば1000円以上の物も並ぶ。

 

 「全て100円」と「品揃えの豊富さ」という逆方向のベクトルが互いの足を引っ張り合う姿には辟易するが、別に100円ショップの存在を否定する訳では無い。

 ただレジ打ちの時に多少面倒というだけの、ありふれた愚痴である。

 

 100円ショップというのは、いやに流行や時節に敏感である。

 なんとなくだが、黒と緑の市松模様の商品や、あるいは別の和柄の模様の商品が店内に増えたような気もする。

 

 私が勤務を始めた10月末には丁度ハロウィン商品がフックに大量に掛けられていたし、時期が過ぎればハロウィン色でいっぱいだった店頭は瞬く間に、クリスマスの赤色から一足飛びで正月飾りの朱色までが煌びやかに光るようになった。

 

 クリスマス商品の中には、付け髭付きのサンタ服とサンタ帽子がある。値段はサンタ服が400円、サンタ帽子に至っては2つセットで100円だ。

 

 レジ当番の時間に、小さな子を連れた夫婦と思しき男女がこれらの商品を買っていった。400円の服を2つと、100円の帽子セットを1つ。

 税込み合計990円で、2人のサンタクロースが完成である。

 

 睦まじきことこの上無い。家に帰ったら衣装を着てクリスマスパーティーをするのだろう。

 レジの画面に表示された「990円」という幸せを目の当たりにした私は、特に複雑な感情を抱いたわけではなく、ただ、羨ましいと思った。ただそれだけの話である。

 

 夕方、その日のアルバイトを終えた私はハンバーガーのチェーン店に一人で行き、クーポンを使い、310円を払ってポテトとコーヒーを頂いた。そして家に帰って晩御飯を食べ、一人でゲームをした。

 

 揚げたてのポテトとコーヒーは冷えた体を暖めてくれた。晩御飯もお腹いっぱいになるまで食べ、ゲームは最後のボスを倒してクリアまで辿り着くことができた。小さいころにクリアできなかったゲームだったから、15年越しの感動はひとしおであった。

 

 冬の明け方は真っ暗だ。